2023ジャパンパラで金メダルを獲得した 市岡 智浩 さん
障害: 視覚障害(全視野の90%損失)
略歴: 大島商船卒業後、京都にて就職するも緑内障により、右目の視野の大半を失い帰郷。26歳時、徳島県の医療福祉専門学校に入学。29歳で作業療法士となり、31歳の時、父親の経営する通所介護施設に入社。34歳で代表を引き継ぐが、再び症状が悪化し、左目の視野も大半を失う。2016年5月に事業廃止し、障害者の自立支援の道へ。同じ障害のある人のピアサポーターや障害者就労支援、障害児支援等に従事。結婚し、2児の父でもある。株式会社キネマティクス所属。
資格: 作業療法士、調理師
元々走ることが好きで、中学校の時に3年間陸上の短距離種目に取り組みました。地区では200mで優勝したり、100mも良い結果がでていたのですが、次第に同級生に抜かれて記録も伸び悩み、諦めてしまいました。
陸上へ再チャレンジしたきっかけは、40歳のころ。障害の悪化で殆どの視力を失い、 “自由に”行動できる範囲が少なくなりました。少年時代は目立ちたがり屋でクラスの人気者だった気がします(笑)。ですが、病気をおい、同窓会などへの参加も腰が引けていました。そんななか、ふと「自由にもう一度走りたい」「障がいのせいでやりたいことを諦める生き方は嫌だ」と思い立ち、競技としてトラックを思い切り走ろうと再度陸上の世界に足を踏み入れたんです。
出会いは2021年3月。当時は練習機会も少なく、伴走者を探していました。知人や友達に相談をする中、友達から紹介をされて出会ったのが古川さんです。古川さんは、岩国市で消防士として働いていて、学生時代~社会人でも陸上を続けている方です。練習場所である、愛宕の陸上競技場の目の前が彼の職場で僕が練習をしているのを見かけたことがあると話していました。古川さんは、以前国体も出ていてそのような自分とは違う世界を知っている方。「伴走者」って特殊な立場なんですよね。一緒に試合に出てメダルをもらうけれど、選手ではない。でも志は同じだと思います。今年金メダルを共にして、今は彼の方がテンションが上がっている気がします(笑)。
結果が付いてくることで、周囲の反応も変わってきたことも大きいですが、一番の変化は、自分自身に陸上が自信をくれたことだと思います。今白杖をつきながら移動をしているのですが、数年前までは「気を付けて歩けば大丈夫…」と思いこむことで頑なに使用をしてきませんでした。本当は、抵抗があったんだと思います。陸上を通して、自信を取り戻したこと、あとは、周囲で支えてくれた人との出会いが大きかったと感じています。
伴走者はもちろんですが、やっぱり一番は家族です。特に奥さんは、練習への送り迎えなど献身的にサポートしてくれましたし、日頃面と向かっては言えませんが本当に感謝しています(笑)。子どもにもできる限り走っている自分の姿を見せたいと考えていて、奥さんは山口市の大会にも子どもを連れて応援に来てくれています。先ほどの白杖の話もですが、奥さんから「自分の為にも、家族の為にも白杖を使ってほしい」と言われたことも大きかった気がします。本当に僕のことを考えてくれているのを感じます。
次に、今の職場でもある株式会社キネマティクスの脇さん。私が視覚障害であることを理解して、強みを活かして働く環境を準備してくれており、会社の所属選手としてトレーニングやサポートもしてくれています。とても感謝をしています。
本当に多くの人の支えがあっての結果だと思います。
高校時代から、右目はほぼ見えず、卒業後に京都で就職して緑内障と診断を受けました。20代の頃は、それほど生活に支障は感じておらず、バイクで旅に出たり楽しく生活を送っていました。右目の視力を失っていた僕は自然と医療福祉の世界を意識するようになり、地元の福祉施設で、調理師として働き始めました。経歴として、障害当事者×作業療法士というレアな肩書を持っているのですが、当時の職場で “関わることでその人らしさを引き出せる”という作業療法士の仕事に魅力を感じてその道を志すことにしました。ところが、作業療法士国家試験直前に左目眼圧の上昇により、視野の大半を失ってしましました。 試験は無事合格し、病院に就職しましたが、ベッドサイドでのリハビリなど制限のある中での仕事を余儀なくされました。仕事自体は長く続けることはできませんでしたが、リハビリを通じて人間の回復力も実感をした経験でした。障害当事者×作業療法士というレアな立場でもこれからリハ職を志す方に向けていつか想いを発信できたらとも考えています。
主に身体障がいの方の体力作りや仲間作りといったコミュニケーションの場を目的として2022年2月に設立しました。チャレンジドとは”挑戦すべき課題や才能を与えられた人たち”を意味する障害者を表す新しい言葉です。「自分らしく生きたい」、「共感できる仲間と笑って過ごしたい」という障害者の方やそれを支援してくださる方たちとチャレンジを進めていきたいです。最近では、地域のイベントでかけっこコーナーや伴走体験会をしたり、学生や企業などに向けて、講演会の講師をさせてもらっています。
鹿児島で10月に行われる、国体で金メダル。そして、県知事に報告。当事者になり、陸上に出会い、世界が広がり、自分にも自信を持つことができた。自分だけではなく、若い世代の子にも道を作っていきたいと思います。